何を間違えたのか

何を間違えたのか
ラマダン月[1]最後の金曜日、メール ハイエト カビルさん(53)は4ヶ月消息不明の息子、メール サーメー ムバシールさん(18)が帰ってくることを望んでいた。バングラデシュでは聖なる日[2]、誘拐犯でさえ人質を解放することがあるのだ。

その夜、18歳の若者はダッカ(Dhaka)に戻ってきた。しかし父親の所ではない。警察は彼が少なくとも4人の殺し屋と共に市内の高級レストランを襲撃し、20人(主に外国人)を殺害した容疑をかけている。今、彼はこの世にいない。仲間と一緒に警察に殺されたのだ。

火曜日、いまだショックを引きずるカビルさんは、一体何が起こったのか、あの穏やかな息子がどうしてダッカ高級住宅地の裕福な生活と愛する家を捨て、急進的イスラム主義の下、武器を取ったのかを理解しようとした。イスラミックステート(IS)は襲撃について犯行声明を出している。

「何かの間違いです。何かが間違ってしまったのです」
iPadに保存されている12月のムバシールさんの18歳の誕生日の写真を見せ、カビルさんは涙をこらえた。

「息子が自分の意思であのようなことを行ったとは信じたくありません」
カビルさんは自宅を訪ねた記者たちに話した。金曜日の襲撃以来、バングラデシュの多くの人々が持つ疑いだ。この襲撃は南アジア諸国の歴史の中で最も恥ずべき事件の一つであり、260億ドル(2兆6,170億円)の衣料品輸出産業にも打撃を与える。

襲撃犯の大部分はムバシール容疑者のような若者であり、裕福な家庭の出で、良い学校も出ている。同じく襲撃犯とされるニブラス イスラム容疑者は22歳で、マレーシアのモナシュ大学に通っていた。学士課程の授業料は年間約9千ドル(90万6,000円)で、バングラデシュの平均収入の6倍以上だ。

彼らの存在は、貧困と無教育が南アジアの過激派を作る主要な要素であるという一般的な説と対立する。通信会社の重役であるカビルさんは、イスラム過激派集団たちが息子を誘い込んだという。この家族と近しい人の中には、インターネットに原因があるという人もいた。カビルさんはムバシール容疑者が行方不明になる1ヶ月前にスマートフォンを与えており、それにより過激派集団とのつながりを持ったのではないかとカビルさんは考える。

愛情ある家庭の出で、ダッカのエリート校であるスコラスティカで世俗教育を受けてきた人が、過激派集団によって過激主義に染められたのであれば、誰も安心できないとカビルさんはいう。
「私たちは思いやりのある家族です。もし彼らが私の家庭から息子を連れ出せたのであれば、どの家庭の子どもも連れ出せるということです」

シェイク ハシナ首相の政治顧問HT イマム氏はロイター通信に対し、襲撃犯たちは単独で行動していたはずがなく、彼らをそそのかした過激派たちと連絡を取っていたはずだと話した。襲撃犯の両親も捜査すべきだとイマム顧問は言う。

息子は子どもの頃恐竜が好きで、複雑な名前も覚えていたとカビルさんはいう。
「いったん好きになったものは詳しく調べるのが息子の特徴の一つです」

8年ほど前にインドを訪れた際、カビルさん一家は有名なタージマハルがあるアグラ市に立ち寄った。その後ムバシールさんは歴史に興味を持ち、ムガル皇帝アクバルやヒンズー教の女神ドゥルガーの絵を描き始めた。

その後数年間、ムバシールさんは1971年に起こったパキスタンの独立戦争を含むバングラデシュ史の勉強を始めた。
「彼は独立戦争に関連した映画やドラマを買い集めていました。とても熱中していました」
カビルさんはいう。

ムバシールさんは英語の映画や漫画を鑑賞することも好きだった。たまに自分や父親のために料理も作った。失踪する数ヶ月前にはフェイスブックをやめ、勉強にさらに集中していた以外、目に見える変化はなかったとカビルさんはいう。

タイル張りの床にシャンデリアが完備された広々とした家の写真は、普通の子ども時代を物語る。その中の1枚でムバシールさんは、兄と一緒にシンセサイザーを演奏している。

だが彼の"精神的成長は遅かった"とカビルさんはいう。
「同級生たちも気づいていました。彼らは息子のことを"マザコン"だと言っていました。息子はそれを嫌がっていました」

ムバシールさんは宗教にも興味を持っていた。カビルさんは息子に英語版コーランを与え、宗教について正しいものを学ぶよう助言をした。
「彼は時には会計士になりたいと言う事があり、またある時には心理学者や社会学者になりたいと言っていたものです」
カビルさんはいう。

ムバシールさんの小さな寝室では、ベッドの後ろの壁にコーランの写真が掛けられていた。ベッドの隣には勉強机があり、会計学やTOEFLといったビジネス学習書が置かれていた。

ムバシールさんは普段1日に5回の礼拝を行い、近所のモスクに通っていた。カビルさんは息子のものとされる遺体の確認にはまだ行っていない。
「奇跡が起こるのを願っています。彼が実行犯の一員ではないと」

Prothom Alo July 06 2016
http://en.prothom-alo.com/bangladesh/news/110977/What-went-wrong

[1]ヒジュラ暦(イスラム暦)の9月。断食月とされている
[2]イスラム教では金曜日を安息日としている。ラマダン月最後の金曜日は特に神聖視される

#バングラデシュ #ニュース #ダッカ人質事件