転機

転機
「ホーリーベーカリー事件はダッカ(Dhaka)を拠点とする駐在員や、ダッカの富裕層の多くにとって、自分自身や家族をバングラデシュの外に退避させる転機になったでしょう」
バングラデシュ国内の国際支援組織で働くある外国人は話す。

7月1日、ダッカの高級街グルシャン(Gulshan)で発生したホーリーアルチザンレストラン(通称:ホーリーベーカリー)の残酷な虐殺事件は、バングラデシュ国民を心の底から震え上がらせた。その波紋は世界中に広がった。

金曜日の夜、レストランを襲撃した過激派たちの手で9人のイタリア人と7人の日本人、3人のバングラデシュ人、さらに1人のインド人が殺害された。事件の報道ともに、ダッカでは緊張と恐怖が広がった。国際メディアチャンネルで最新のニュースが流れ、バングラデシュは地図に示された。全く良くない理由で。

ホーリーベーカリーの事件は、昨年9月にダッカで起ったイタリア人チェザール タベッラさんの殺害から、ロングプール(Rangpur)で発生した日本の農業指導者星邦男さんへの殺害と続く一連の殺人事件だとみられた。もちろん事件に前後して、相次ぐ襲撃事件があった。無神論者のブロガーやヒンズー教祭司、仏教の僧侶、ゲイ活動家、さらには多数派のムスリム(イスラム教徒)コミュニティのメンバーも殺害された。

バングラデシュで働く外国人たちは用心した。駐在員や会社員、国際開発活動家、様々な国の上級幹部、その他の人々が警戒態勢に入った。移動は規制されたが、不安と共に状況が良くなるだろうという希望があった。だが状況は良くならなかった。7月1日の惨劇がターニングポイントだった。国内は恐怖に支配され、一握りの希望は消え去った。ダッカはもはや安全ではなくなった。バングラデシュはもはや安全ではなくなったのだ。

アメリカ国務省はグルシャン襲撃事件を受け、国民に対し、バングラデシュに行く必要があるかの検討を行うよう警戒を呼びかけた。7月10日、国務省は次のように明言し、ダッカのアメリカ大使館に配属されている政府職員の家族の自発退避を許可した。
「アメリカ政府はテロリストの脅威が現実かつ、確かなものだと査定します」

国内の他の外交使節団や外国人職員を擁する施設も、この状況について同様の緊急対応を行った。

「安全のため、妻と私は夏の終わりまでにここを離れます。移動を制限されているという理由もあります。今は職場とクラブ、アパートの間しか移動できません」
あるアメリカ人開発職員はいう。

「駐在員としてここに住む私たちにとって非常に困難な状況です。ですが母国の基本的な価値観が傷つけられたバングラデシュの人々にとっても、厳しい時なのです」
国連のバングラデシュ組織で働くあるカナダ人はいう。

彼らの言葉は3つの隣接した上流階級地区グルシャンとバリダラ(Baridhara)、バナニ(Banani)の雰囲気を反映しているように見える。容赦のない交通渋滞はなくなり、ショッピングセンターは寂れ、最先端のコーヒージョイントは盛り上がらない。

グルシャンで一番人気のカフェは取り乱している。
「商売あがったりです。お客様がいません。あの事件は商売に悪い影響を及ぼしました。莫大な投資を行いましたが、商売にとって致命的です」
オーナーは嘆く。

グルシャンにある外国人に人気の大型スーパーでも損失が出ている。
「1日に140~150万タカ(186~200万円)の赤字です。外国人のお客様はもはや来店されず、国内のお客様も劇的に減りました」
経営者は肩を落とす。

もっとも"ポストイード症候群"も考慮に入れる必要がある。今年のイード[1]休暇は10日間に延長されたが、人々は例年のようにゆっくりと都市部に戻ってきている。この事も間違いなくダッカ全域で人が少ない大きな理由だ。

だが、通りに"外国人の"顔が見られないのは特筆するべきだ。当然ながらテロ襲撃以降、外国人たちは確実に屋内にこもった方が安全だと考え、本当に必要でない限り外には出ないだろう。

わずか数年であったとしても、バングラデシュを故郷とする駐在員たちには悲哀の空気が流れる。
「バングラデシュはとても活力のある場所です。人々はとても寛容で、そのためにあの暴力が一層痛ましく感じられます」
西洋のある外交使節員はいう。

本当に痛ましい。政府や非政府、政治家や非政治家、会社員、市民団体、個々の市民など、バングラデシュの人々は大きくそびえる邪悪に対し、一斉に立ち上がることだろう。

我々は邪悪を砕き、我々の土地に再び外国の友を暖かさともてなしの心で迎え入れるのだ。だから彼らに別れは告げない。安全を求めてバングラデシュを去る人たちに、我々は"アスタ ラ ビスタ"と言おう。さようなら、またいつか。


Prothom Alo July 12 2016
http://en.prothom-alo.com/opinion/news/111693/The-Tipping-Point
翻訳:ハセガワ

[1]イード・アル=フィトル:断食明け大祭。ラマダン(ヒジュラ暦9月:断食月)の終わりを祝うイスラム教最大の祝祭

#バングラデシュ #ニュース #ダッカ人質事件