無邪気なダッカの終わり

無邪気なダッカの終わり
1980年代、ダッカ(Dhaka)で私が育っていたとき、街中にあるグルシャンというエリアにいつも住みたいと思っていた。7歳の心の中では、グルシャンは宇宙の中心だった。
私の家族はダッカ市の古い(そしてとうてい「流行に敏感」ではない)エリアに住んでいた。そして家族がその父方の祖父母の家から引越そうとしない事は、幼い私にも十分わかっていた。

成長するにつれてダッカ市が変わっていったときでさえ、私の心の中のグルシャンは街中にある魅惑的で到達できないエリアのままだった。深いエメラルド色をしたグルシャン湖に囲まれ、とても多くの外国の大使館、最高のレストランやカフェ、豪華なマンションや家、そして無数の援助団体の事務所が常に存在する場所だった。

そのグルシャンにあるホーリーアルチザンベーカリーが今まで見たことのない攻撃で襲撃され、18人の外国人を含めた20人の人質が亡くなった。襲撃事件が起こった7月1日夕方以降、私の青春であるグルシャンが世界的に注目を集めるのを目の当たりにするとは、とても現実とは思えなかった。

グルシャンは地元住民から完全に隔離され、外国人や外交官が住み働くイラクのグリーンゾーンのような遮断エリアではない。国内の援助団体がたくさん存在するので、外国人や外交官と同様、バングラデシュ人にとっても市の中心地だった。

このことはほぼ確実に、襲撃者が外国人や裕福な国民が頻繁に利用する高級なホーリーアルチザンベーカリーを標的として選んだ理由の1つだった。

ホーリーの共同所有者の1人で、長年家族ぐるみで友人のアリ・アルサラン(Arsalan)さんは、個人のフェイスブックにこう書いた。「亡くなられた方々とその家族、そしてあの悪夢を生き抜いた私たちのスタッフのために祈ってください」
「あそこで起こったことは恐ろしい悲劇であり、私たちは心底衝撃を受けています。とても多くの愛で作られたものや、とても多くの優しさと幸せがあった場所が、こんな風にめちゃくちゃにされるとは思ってもみませんでした。店を続けることを考える強さを今日見つけることは難しい」

バングラデシュは一夜にして開発の成功物語のシンボル国で、イスラム教徒の国では珍しい民主主義国家とイメージされた国から、テロに苦しめられる国へと変わってしまった。だがインドの東側のこの小さな国の歴史は、ダッカがなぜカラチ(パキスタン)やカブール(アフガニスタン)ではないかを教えてくれる。

バングラデシュは長い歴史と多元的な伝統を持つ国であり、常に宗教的アイデンティティの上に世俗的文化を置いてきた。これは1947年のインド分割後、バングラデシュが東パキスタンでいたくなかったきわめて重要な理由だ。

バングラデシュは1971年のパキスタンに対する解放戦争中、イスラムのアイデンティティの上に世俗的なアイデンティティを選択した報いを受けた。300万人以上のバングラデシュ人が亡くなり、40万人以上のバングラデシュ人女性と少女がレイプや拷問を受け、大量の難民が隣国インドにあふれた。

2016年の今日、自由のために亡くなった自由の戦士である男や女たちは、宗教的なアイデンティティのため、世俗的なアイデンティティを捨て去りたいと思う勢力について、どう思うのだろうか。

故郷のバングラデシュでは友人や家族、特に犠牲者の家族は想像を絶する恐怖や痛みを体験し、世界中のバングラデシュ人は国外で同胞を哀悼する。

遠く離れたアメリカで、私は決して終わることのない葬儀に様々な形で出席している。私はバングラデシュとともに、私が育ったダッカの死を悼んでいる。知っている、そして愛している、子どもの頃の私であればそこに住むためにどんなものでも差し出したであろうグルシャンの死を哀悼している。

何かがダッカで腐敗していることを知りながら顔を背けていたことや、ブロガーが公共の場で虐殺されでも見て見ぬふりをしたことを否定することはできない。バングラデシュ社会の最も豊かで、若い教養のある心にでさえ、癌が浸透していったという事実を受け入れざるを得ない。

本当は私たちは皆、血塗られた手の持ち主である。本当は私たちは皆、罪を犯している。バングラデシュは、私たちが決して同じではいられない角を曲がってしまった。私たちの無邪気さは容赦なくはぎ取られてしまった。

私はハッシュタグ「#DhakaStrong(強いダッカ)」の精神を信じている。私はダッカが強いと分かっている。私たちが切り抜け、生き延びた飢饉やサイクロンや洪水やクーデターや戦争を見ろ。

だが私たちは交差点にいる。血に染まった独立戦争から45年、バングラデシュはもう一度、どんな国かを選ばなければならない。もっと重要なのはどんな国でありたいかだ。

1971年は世俗主義が勝利した。今日バングラデシュはどちらの方向を選ぶのだろうか?


オリジナルはCNNのウェブサイトに掲載。著者の許可を得て転載。
著者はワシントンDCに拠点を置くバングラデシュ人のジャーナリスト兼政策アナリスト。

The Daily Star July 13 2016
http://www.thedailystar.net/op-ed/politics/the-end-dhakas-innocence-1252591

翻訳:アラトモ

#バングラデシュ #ニュース #ダッカ人質事件