教育大臣のジレンマ

教育大臣のジレンマ
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木曜日(2016年8月18日)に発表されたHSC(高等学校資格証明)[1]の試験結果が良かった生徒たちは、メディアで報じられたようにその元気な姿を見せる権利を得た。これは12年間の学業の到達点であり、教育の新たな段階やキャリア形成、そして大人への第一歩を記念するものだ。

ヌルル イスラム教育大臣は中等教育の質について諮問委員会を任命し、火曜日に第1回会議を行った。
「我々は機会の拡大に成功し、女子は男子の成績を上回っています。しかし我々は質においてもっと良く取り組む必要があり、何を行えるかについて専門家や実践者からの助言を必要としています」
ヌルル大臣は話した。

技術教育委員会とマドラサ教育委員会を含む10の教育委員会に所属する8345教育機関のおよそ120万人の生徒のうち、4分の3、正確には74.7%の生徒が成功を収めた。6.4%にあたる5万8276人の生徒は成績評価点(GPA)の最高値である“5”を達成した。

全体の合格率とGPA 5の割合は2015年から著しい改善があった。8つの一般教育委員会では、昨年に比べ合格率は6.6%、GPA 5獲得率は15%高かった。ジョソール(Jessore)教育委員会は2015年に比べ、39%もの飛躍的改善を記録した。昨年は合格率がわずか46.45%と最も低かったため、興味深いことだ。

これらの数字はいくつかの疑問を投げかける。教育の質やその結果における大幅な変化は、通常は1年間で起こることはない。この大きな変化を生み出すため、教え方や学び方、教育提供でどのような変化があったのだろうか。ジョソール教育委員会やそこに所属する学校やカレッジが、わずか1年間で教育の質に劇的な変化をもたらす方法を見出したというのであれば、教育システム全体に取り入れるため、ジョソールの歩みや学ぶべき教訓を特定する調査プロジェクトが必要となるだろう。

8つの一般教育委員会の間では、最低値のコミラ(Comilla)で64.49%、最高値のジョソールで83.42%と23%の差があるが、ここから次のような疑問が上がってくる。コミラの教育機関はどのような良くないことを行い、ジョソールの教育機関はどのような良いことを行ったのだろうか。教育評論する専門家たちは、この差異は試験そのものの信頼性と妥当性について、問題提起するという。

研究者や専門家は教育省の会議で、幅広い懸念を示した。全得点の40%を占める選択肢問題は学力の正しい測定というよりもむしろ運の問題であり、都市部の生徒に過度の優位性を与えたと考える者もいた。

得点や試験項目、地理的条件、教育機関の種別などの差異に関した本格的な調査や分析が不足しているため、この意見は推測に基づいたものだ。会議で提示された統計的根拠の一つとして、選択肢問題は解答の記述を要する他の種類の問題に比べ、人口に対して期待される正規分布により近かったというものがある。得点の60%を占める記述問題では、分布に沿ったピークを見せた。記述問題で高得点を得た生徒ほど、より高いGPAを得ていたのだ。

生徒の学力を検査・評価することは高度に技術的な課題ではないし、試験の信頼性(同じ試験を繰り返した時に同じ結果が返ってくるか)と妥当性(測定されるべき能力が本当に測定されているか)の保証に関して常に誤差がある。この両方の点で、試験内容と得点付けについての体系的かつ継続的な調査分析や改善が必要とされる。委員会や中央の何らかの学問組織がそのような調査分析を行っているという話は聞いたことがない。

教育省の会議では試験や検査の話題が主流となったものの、試験や検査問題には注目すべきだが、本末転倒になってはいけないとされた。教育の質に関する問題は根深く、教員たちが教室で行えること、行うべきこと、カリキュラムや教科書、学校設備やインフラ、そして運営全体に関係している。

バングラデシュ教育統計庁(BANBEIS)が2014年に行った中等教員調査では、中等学校100校に対してベンガル語で50人、英語で57人、コンピュータサイエンスで47人しか資格を持つ指定教員がいないことが判明した。これらは全て必修科目だ。数学や各理系科目は、1校当たり教員数は1.6人という結果だった。少なくともこの2倍はあるべきだ。もちろんこの数字は、これらの教員の技能や能力とはまた別の問題だ。(CAMPE,良質な教育:次世代の教員,2016年)

HSCに合格した生徒とその両親にとって緊急かつ頭の痛い問題は、教育の次の段階でどこに行くことになるかだ。公立大学に入れるのはわずか5万人ほどで、GPA 5を獲得した生徒にとってさえも十分ではない。激しい競争を前に、1人の生徒が15もの大学に出願することになるかもしれない。大学では共通試験の結果を十分な専攻基準としてはみなしておらず、生徒たちは複数の試験を受けるため、国中を駆け回らなければならない。

10年間議論がなされてきたにもかかわらず、大学ではまだ共通入学試験を採用していない。大学入学委員会や教育省はこの問題について助けとなりそうにはない。

シェイク ハシナ首相はHSCの結果を受けて次のように話した。
「我が国の生徒たちは世界中のどの生徒にも劣りません。高等教育の機会を広げる必要があります。カレッジの無い郡全てに政府運営のカレッジを開設し、国内の全ての県に私立、もしくは公立大学を設置する計画を立てています」

ハシナ首相が掲げる目標は申し分のないものだ。だが同時に、許容しうる最低限度の品質水準を設け、これら全ての機関に導入しなけらばならない。これが上手くいかなければ資源の無駄遣いで、問題を悪化させるだけでしかない。

ヌルル大臣が開いた会議は、研究者や専門家、関連する政府職員を交えた委員会を発足し、試験やカリキュラム、教科書の問題の調査に当たらせるという結論で締められた。これは必要な事であり、勤勉に追求していけば問題解決の助けとなることだろう。

だがこれは病気の根源ではなく、表面の兆候を見ているようなものだ。ヌルル大臣はより長期的な見通しを備えた、大胆な戦略を主導する必要がある。何人かが発言したように有能な人物を誘致して雇ってから、職務前や職務中の専門能力の開発、教員に対する動機付けや報酬、社会的地位が主要な分野のひとつになるだろう。

全ての教育機関への統治や運営で、分割されてない一体化構造も必要だ。他のあらゆる国と同様に、K-12(初等教育や中等教育の期間)も別問題としてあるだろう。

これらの動きの中で、政策決定者や研究機関はヌルル大臣を支えていかなければならない。

The Daily Star Aug 23 2016
http://www.thedailystar.net/op-ed/politics/the-education-ministers-dilemma-1273840
翻訳:長谷川
#バングラデシュ #ニュース #HSC試験
[1]後期中等教育終了後(12年生)受験する試験。試験結果に合わせていける大学が決まる。