モスタクール ラーマン アリムさんとサロウェール ニミーさんは4年前、娘のエルマちゃんの耳から膿のような液体が漏れだしてきた時、自分たちに何が起ころうとしているのか全く思いもつかなかった。
ダッカ(Dhaka)ジャトラバリ(Jatrabari)出身の両親は手掛かりがつかめず、翌日1歳の娘を医者のもとへ連れて行った。医者は薬を出し、エルマちゃんは数日ほどで回復していった。
だが話はこれで終わりではなかった。
数日後、両親はエルマちゃんの耳の問題に気付いた。1歳半を迎えたエルマちゃんが聴覚を失い始めていることに。さらに以前は上手く言えていたいくつかの言葉を発することも困難になっていた。
「私たちにとっての世界全てがひっくり返ったようでした。エルマは喋ろうとしたのですが、だめでした」
電気技師のモスタクールさんは話す。
エルマちゃんはきれいな青い目を持った普通の子として生まれた。出産は両親に喜びをもたらした。2人は親の承諾なしに結婚していたのだが、エルマちゃんのお陰でようやく和解できたのだ。
エルマちゃんは成長する中で聞くことも、"マー(ma)"や"バー(ba)"といった簡単な言葉を言うこともできた。
「(耳から液体が出てきた)あの事件以来、エルマが次第に聞く力を失いつつあることに気付きました。エルマは以前に発していた言葉を言うのもやめ、腕を使って私たちとコミュニケーションをとるようになりました」
母親で専業主婦のサロウェール ニミーさんは話す。
2人は娘を治療するため、あらゆる手を尽くした。病院を回り、数多くの医者に会ったが、努力は実らなかった。
そんなある日、2人はダッカのサモリタ病院の医者から、人工内耳という外科手術の存在を知る。2人は手術について詳しい話を聞いたものの、費用は電気技師の父親には支払えない額だった。
「手術には150万タカ(198万円)ほど費用が掛かると言われました。エルマを治療するため、自分たちの臓器を売ろうとさえ考えました」
サロウェールさんは話す。
両親の願いはついに現実となった。エルマちゃんは最近になり、ボンゴボンドゥシェイクムジブ医科大学(BSMMU)で人工内耳手術を非常に安価な費用で受けられたのだ。両親はわずか1万5千タカ(1万9800円)を支払うだけで良かった。
<人工内耳>
人工内耳手術は社会福祉省が"人工内耳発達プログラム"と題し、BSUMMUで実施している特別プログラムの下で行われている。同省が費用の大部分を負担し、両親はその月収に応じて1万5千タカ(1万9800円)から5万タカ(6万6千円)を支払うだけで済む。
このプログラムは主に低~中収入世帯の聴覚障害を抱える人を治療する目的で、2010年に立ち上げられた。外科手術は大人よりも子どもの方がより効果的であるため、プログラムは子どもに重点を置いている。
通常、社会福祉省は新聞で広告を出し、聴覚障害に苦しむ子どもを持つ親や治療を希望する人から申し込みを募集している。申し込みがあった後、同省は希望者を調査し、患者を選ぶのだと省職員は話した。
2013年まで続いたプログラムの第1フェーズでは、合わせて48人の子どもと6人の大人が手術を受けた。医者によれば、治療を受けた子どもの多くは聞くことや話すことができるようになり、今では学校で勉強し、普通の生活を送っているという。
2014年に開始した第2フェーズでは、40人の子どもと1人の大人が選考で治療対象として選ばれた。手術は今年始まり、エルマちゃんや他の何人かの子どもは既に治療を受けている。
プログラムは目下継続中であり、政府は現在まで2億タカ(2億6千万円)を費やしている。治療の需要増加を受け、政府は今年7千万タカ(9200万円)を年次予算として割り当てることを決定した。社会福祉省副長官(計画担当)のABM シャフィクル ハイダール氏は話す。
「このような素晴らしい試みを行ってくれた政府に感謝します。娘の治療を助けてくれました。エルマが私たちの言葉をもう一度聞けるようになる、この喜びは言葉にできません」
エルマちゃんの父親のモスタクールさんはデイリースターに話した。
BSMMUの医者によれば、エルマちゃんはリハビリを経て、手術から1年以内に話すことや聞くことができるようになるだろうという。
人工内耳プログラムの責任者アブル ハスナト ジョアルデール氏は次のように話した。
「バイオニックイヤーとして知られている人工内耳用器具を彼女(エルマちゃん)の耳の中に取り付けました。3、4週間後には耳の外側に外部器具を取り付けます。この器具が移植した器具と共に動作することで、彼女は聞こえるようになります」
その後エルマちゃんは週に2日の聴覚言語治療を1年間にわたって受けることになる。これは言葉を学ぶ助けになるだろうとハスナト氏は話す。また、エルマちゃんが1年以内に話せるようになるため、家で練習を行い、定期的な治療を受ける必要があるという。
BSMMU教授でもあるハスナト氏によれば、聴覚障害は治療できるものであり、重度の聴覚障害を抱える子ども生後5年以内に人工内耳手術を行えば治療が可能だという。
「2~3歳の時に治療を行えればさらに効果的です。言語学習能力は年齢と共に衰えるためです」
この期間内に手術を受けられたエルマちゃんは幸運であるとハスナト氏。
世界保健機関(WHO)が2013年に実施した調査によれば、バングラデシュ国内では毎年約2600人の子供が聴覚障害を持って生まれ、0歳から14歳の子供の約6%が中程度の聴覚障害に苦しんでいるという。
この調査によればバングラデシュの全人口の9.6%、世界人口の15%が様々な種類の聴覚障害に苦しんでいるとされる。
バングラデシュ/The Daily Star Nov 02 2016
http://www.thedailystar.net/frontpage/making-children-smile-1308034
翻訳:長谷川
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