ある日本人妻

ある日本人妻
2014字

彼女は広島と長崎の原子爆弾投下は見ていない。彼女はまだ生まれてなかったからだ。だが彼女は英国の協力によって米国が落とした1945年8月の2つの原子爆弾の恐ろしさを知ることになる。1950年11月1日生まれの彼女は歴史書を読んだだけだったが、両親から、核兵器で少なくとも12万9千人以上が殺されたことを学んだ。彼女の敏感で思いやりあふれる心は、のちにサイクロンに見舞われたバングラデシュの苦難を、我がことのように感じる心に繋がった。

1970年11月12日、バングラデシュは50万人が死亡するという壊滅的で史上最悪な自然災害を受けた。東京の実践女子大の学生だった彼女ウエマツカズコさんは、バングラデシュ人学生と一緒に、サイクロン被災者のための資金集め街頭キャンペーンに参加した。そのときの学生の一人、東京大学で造船工学を専攻し、バングラデシュ学生協会を設立したモムタジ ブイヤン(Momtaj Bhuiyan)さんは、1971年の独立戦争のサポートをしていた。カズコさんはこのグループのメンバーとなり、バングラデシュ独立闘争に打ち込んでいった。彼女は人生の終わりまで、バングラデシュのサポートを続けた。1973年、モムタジ ブイヤンさんと結婚したとき、彼女は三島市にある静岡銀行で働いていた。彼女は仕事を辞め、家族を残し、それから43年間バングラデシュで暮らした。そしてバングラデシュのため、彼女の仕事を続けた。

最初の2年、彼女は日本大使館に勤務した。のちに大使館の日本語学校の教師として働いた。35年間、今では日本・バングラデシュ両国の各分野で活躍する学生数百人に日本語を教えた。教えただけではなかった。彼女は同時に日本の高等教育で学びたい学生を励まし、援助した。学生たちは彼女の愛情あふれる優れた人間性や、時には母のように、時には友人のように接してくれた態度を覚えている。教え子たちの多くはカズコさんと会わなかったらチャンスを逃し、成功は遠く、今のような豊かな人生を送ることはできなかっただろうと感じている。

2016年7月1日、ホーリーアルチザンベーカリーのテロ攻撃で他の被害者とともに日本の市民が殺害されたあとも、日本はバングラデシュと友好関係を保ち続けることを保証した。私たちの最大の協力国として日本は、バングラデシュ発展の長年のパートナーであり、低金利融資を提供し、開発プロジェクト計画を政策立案者に提案してくれた。独立行政法人国際協力機構(JICA)や日本貿易振興機構(JETRO)は何十年もの間、開発発展部門でバングラデシュの仲間だった。既製服など日本への輸出もまた増えている。衣料品、金融、インフラ、IT、農業、社会企業などの企業もまた、バングラデシュ市場へ進出することに興味を示している。橋や排水溝などインフラ開発への日本の貢献は特に重要だ。彼らの誠実で妥協のない仕事ぶりはバングラデシュの人々の信頼を得ている。

ウエマツカズコ ブイヤンさんは穏やかな日本人気質を反映している。彼女はバングラデシュと日本の友好を強化、促進する責任者を引き受けた。彼女ならどんなことがあっても二国の関係を破たんさせることはないだろう。これはホーリーアルチザンの襲撃犯がバングラデシュを表すものではないという彼女の確固たる信念の証だ。バングラデシュはフレンドリーで温かい。外国人を歓迎し、彼らを認める。海外から来たゲストに、時には自分たちのやりかたではないにしろ、お金をかけていつも快適で幸せな気分になってもらおうとする。彼女はテロ犠牲者を追悼するキャンドル集会に参加した。感情を込め、信念を持ち、中央Shaheed Minar(国定記念碑) の哀悼ミーティングで、テロリストたちはバングラデシュ人になるこができなかったと主張した。

ベンガル語が流暢なカズコさんは、この国で外国人であることを一度も感じたことはなかった。バングラデシュにいつも安全と快適を感じ、日本のNHKテレビのグルシャン攻撃に関する放送のインタビューを通じ、世界中にメッセージを流すことに躊躇しなかった。実際彼女は残忍な攻撃事件の犠牲者を追悼するフォローアッププログラムに参加することを約束した。

ある人にとってカズコさんはひたむきな先生だった。別のある人にとって彼女は情熱的な社会事業家だった。そして多くの人にとって彼女はゲストのために日本料理を作ってくれる魅力的なホストだった。
私にとって彼女は人生を肯定的に生きる象徴だった。彼女は心からバングラデシュを励ましてくれた。ジュン、ルミ、ユリカ、3人の母親であるウエマツカズコさんは、アブダビで悲劇的な交通事故に遭い、2016年7月29日、静かに息を引き取った。

だがカズコさんの永遠の微笑みと美しい笑顔は、これからもバングラデシュを照らし続けることだろう。


The Daily Star Aug 08 2016
http://www.thedailystar.net/op-ed/politics/the-japanese-wife-1265947
翻訳:吉本

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